「親になると分かる、経営者の苦悩。」僕は彼女に妊娠を告げられた|第13話
12話に引き続き、僕の結婚をお祝いしてくれる席。
会話の内容は、僕の結婚や出産の話題から、仕事や将来の話題に自然と切り替わっていきました。
「このチームで何を成し遂げたいか?」
「自分は将来的に、どんな人間になりたいか?」
「今後トライしてみたい事業は?」
ベンチャー企業らしいワーカホリックな会話を中心に、熱い議論が進み、全体のドリンクスピードも上がっていきました。
「年齢を重ねても、ずっと前線で頑張りたい!」
「ゆくゆくは、後輩育成に尽力してみたいかな?」
人によって将来の展望は様々でしたが、
「日本を代表する企業に昇りつめたい!」
その共通認識だけは、全員がブレずに持っていて、この会社の一社員として誇りに思えました。
盛り上がりが最高潮に達したとき、一人の同僚が副社長に素朴な質問を投げかけました。
「前からずっと気になってたんですけど、堅実なイメージの強い副社長が、割りと楽観的な社長と二人でベンチャー企業を起ち上げた理由って、何がきっかけだったんですか?性格とかも結構反対じゃないですか?(笑)」
お酒の席らしい、強烈な質問が飛び出し、僕たちの視線は一斉に副社長に集中します。
「なんでだっけな〜?(笑)」
笑いながらも少し緊張気味な社長を横目に、副社長は記憶を呼び戻しながら、当時のことを語ってくれました。
「元々、(社長とは)大学の同級生で、よく遊んだり、飲んだり、学生時代から仕事かじったりしてて。それで、21くらいの時かな?僕が就職しようか迷ってるって相談したらさ、“就職してもいいけど、置いてくよ?(笑)”って言われたのよ。」
「えっ、そんな事言ったっけ?(笑)」
真面目に語る副社長とは対照的に、少し酔いが回ったのもあり、おどけてみせる社長。
「間違いなく言ってたね(笑)僕らの仲良しは就職しない人が多くてさ、そいつらみたいに自分で起業したりして一気に駆け上がるから、“置いてくよ”って。それが決め手で就職しない道を選んだ感じ。で、まあ組むなら社長かなと。性格も仕事のやり方も全く違うんだけど、根本的な価値観だけは同じだから、組んだら強いよねと思ってたから。」
「違うタイプで組むと強いって言うよね。」
「そうそう、それでどんな事業に全力投球するかたくさん話して、世話になってる人たちにフィードバックもらって、結局今の会社になったんだよね。」
初めて耳にした会社の誕生秘話に、軽く感動する社内のメンバー。
とはいえ、創業当時は、決して順風満帆ではなかったらしく、
「業績は伸びないし、僕らの報酬ゼロだし、人の入れ替わりは激しいし(笑)本当にカオスな日々だったね〜(笑)」
「本当にそう。よくここまでやってこれたよね(笑)まだまだ理想とは程遠いけど。」
今だから2人とも笑いながら話していましたが、その過去には多くの苦悩や葛藤があったことを感じ取れました。
「みんなが入ってきて、責任すごいけど、嬉しいよね」
と述べる副社長と
「会社潰れるかどうかは、みんな次第だからよろしく!(笑)」
とチョロける社長。
「いやいや、社長も責任持ってくださいよ〜(笑)」
と思わずツッコむ僕ら。
冗談まじりな雰囲気でしたが、僕らのような社員メンバーが増えれば増えるほど、経営陣には負担がかかるようになり、責任に押し潰されそうになることもあるんだなと思えました。
彼女が妻になり、子供が生まれ、父親として家族を支える身になるってときにはじめて“経営者の責任感”が少し分かったような、そんな気がしました。
「ダメだった時に、失うものがある。」
そんな経営者の苦悩をちゃんと理解した上で、今後の仕事に取り組もうと、父親になったからこそ強く誓えたんだと思います。
その後も熱い話を弾ませていると、いつの間にか4時間弱経過して、祝賀会もお開きの時間に。
全員がグラスを空けると、
「じゃあ、そろそろ締めるか。小嶋よろしく!」
社長が締めの言葉を振ってくれました。
「みなさん。今日はこんな素敵な会を本当にありがとうございました!エグい質疑もありましたが(笑)めちゃめちゃ楽しかったです。来週からもどうぞ、よろしくお願いします!」
改めて感謝を述べると、
「本当におめでとうございます!」
「奥さんの分まで頑張らないと(笑)」
「仕事はサポートするんで、何かあったら言って下さいね!」
最後まで心温まる言葉をかけてくださり、僕はとても幸せな気持ちでお店を後にしました。
僕は経営者ではないけれど、父親としての責任感が芽生えてきた今からは、自分ひとりのためではなく、仲間のために働くことを意識していこう。
そんなことを強く心に誓う祝賀会になりました。
<続く>
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