「結婚すると分かる、“放任”という親の優しさ。」僕は彼女に妊娠を告げられた|第19話
実家での対面を無事に済まして、僕たちは両家で食事をする会席料理のお店に移動しました。
コース料理を予約していたので、ドリンクだけ先に頼むことに。
「めでたい席ですし、お酒でも飲みましょうか(笑)」
彼女のお母さんの提言で、僕と母もビールをオーダーします。
妊娠中の彼女と運転する父は、ソフトドリンクを注文。
手短に乾杯を済ませ、しばし談笑していると、
「そういえば、籍入れるのって来週じゃなかったか?」
今まで口数の少なかった父親が、唐突に入籍について切り込んできました。
「保険とか扶養の都合もあるから、来週の水曜日に入籍しようと思ってるよ」
父にそう切り返すと、
「そっか!来週入籍するんやったな(笑)ほな大阪戻ったら、急いで必要な書類送らな!」
僕と父とのやり取りを耳にして、ハッとした義母が彼女へ話しかけます。
「戸籍謄本だけ送ってあげてください!謄本さえあれば、大丈夫だと思うんで(笑)」
母も僕と父のことは意に介さず、彼女のお母さんへ必要な書類を伝えます。
「でも、なんでまた入籍日なんか聞いたの?」
盛り上がっている女性陣を横目に、質問の真意を父親に伺うと、
「仕事で役所に行く事多いから、必要なら婚姻届を貰ってきてやろうかと思ってよ」
普段は寡黙で厳しい父ですが、この時ばかりは少し照れているのが見てて分かりました。
「なるほどね。それなら、貰ってきてほしい!」
珍しく優しい父に、素直にお願いすることに。
「分かった。貰っておくから、来週はうちに寄って書いてから区役所行けよ。時間合えば送ってやれるし!」
そして入籍予定日には、実家に一度寄って、婚姻届を記入してから区役所へ行くことで話がまとまりました。
その後も料理を堪能したりお酒を嗜んだり、なかなか盛り上がりました。
緊張した雰囲気ではじまった両家の顔合わせも、気が付けば和やかな雰囲気になっていて、あっという間にお開きの時間が近付きました。
両家顔合わせのお会計は、お互いの家で割るか、親をもてなす意味で子供たちが出すのが通例と言います。
ただ今回に関しては、東京へわざわざ出向いてもらったこともあり、僕が負担させてもらいました。
「今日は本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。次は大阪でやりましょう(笑)」
次回の約束を取り付けて、お店を後にしました。
本来「顔合わせ」とは、お互いの家族が親睦を深める大事なイベントです。
会場を押さえたり、料理も事前に予約しておいたり。更に言えば、“結婚記念品”まで用意しておくのが一般的と言われます。
もちろん、お酒の有無や服装の事前打ち合わせ、費用の分担など、細かい部分にも気を配らないといけません。
僕らの場合、きちんとした形式を取れませんでしたが、それでも、両家の親のサポートのおかげでとても有意義な時間を過ごせました。
幼い頃から、それこそ多感な時期は、完全に放任主義な親に対して憤りを覚えてた時期もありました。
兄たちと歳が離れている分、両親は僕に興味がないと拗ねていた時期も短くありません。
末っ子だから、甘えたい気持ちも大きかったと思います。
いざ自分が親になるタイミングになると、その“放任”こそ両親の優しさだったのかもしれないと身に沁みて感じます。
籍を入れる時期にしても、こういった顔合わせにしても、
「お前らが納得しているなら何でも大丈夫だよ。」
そう言葉には出さないものの、嫌な口出し一つせずに私たちを見守ってくれます。
「子供をしっかりと育てるのはもちろん、少しずつ親孝行もしていかないとな。」
両家揃った食事会を振り返りながら、親への感謝を再確認した僕は、自分も立派な親になって、きちんと親孝行をしようと改めて思うのでした。
<続く>
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