「仲間の支えがないと、父親にはなれないかもしれない。」僕は彼女に妊娠を告げられた|第12話
「大阪に帰ろうと思ってる。」
彼女に里帰り出産を告げられてから一週間ほどが経過した、妊娠11週目の金曜日。
この日は、社長・副社長と職場メンバーが祝賀会を計画してくれた日でした。
ただ、恥ずかしいことに出産前の別居生活の不安が未だ拭えず、少し悶々とした状態でお店へ移動。
仲間たちの先導で案内されたのは、渋谷のセルリアンタワー東急ホテル、最上階のバー『ベロビスト』でした。
新宿方面を中心に都内の夜景が一望できる景観と、そのバーの雰囲気にテンションが上がりつつ、座席に腰を下ろすと、すぐさま人数分の乾杯シャンパンが。
「みなさん、今日は本当にありがとうございます!えー・・、とにかく楽しみましょう!(笑)乾杯っ!」
一応メインということもあり、不慣れながら、僕が乾杯の音頭をとらせてもらいました。
贅沢にもフリーフロープランということで、飲み過ぎる空気が漂う中、温かい祝福の言葉をかけてもらいながら、お酒を嗜んでいると、
「とりあえずさ、小嶋に質問したいことを時計回りで聞いていくってのはどうよ?(笑)」
社長が僕への質問タイムを提案し、
「もうさ、祝いの席だし、もうこのメンバーじゃん。ぶっちゃけでいこう。ぶっちゃけ彼女に言えないこともアリで聞こう!(笑)」
と副社長が乗っかる形に。
「あっ、これやば(笑)相当ぶっちゃけな質問来るやつだ(笑)」
と内心焦っていると、すんなりみんなが賛同して、僕が順々に質問に答えていくことになってしまいました。
そこからもう質問攻めで、
「名前はもう考えているのか?」
「性別はどちらが希望か?」
「妊娠すると、彼女との関係って変わるの?」
といった具合に、まずは妊娠や出産に関する質問が飛び交いました。
「名前は性別が決まってから考えようかと(笑)性別はこの際、無事ならどちらでも嬉しいですね」
僕も応じて答えていきます。
他にも
「彼女さんの好きなところは?」
「結婚を決意した瞬間は?」
と、彼女や結婚に関する質問も多数ありました。
僕もお酒が進み、いつもなら躊躇うプライベートな回答も、すらすら答えていると、
「ぶっちゃけでいきますね(笑)子供もできたし、これから入籍すると思うんですけど、正直、正直な話、彼女さんが妊娠しなくても、小嶋さんは彼女さんと結婚したと思いますか?」
という、とてつもなく際どい質問が。
祝ってくれたのは、かなり近い面々だったので、彼女の妊娠が発覚してからの結婚への迷いや、別居生活に対する不安など、僕の戸惑いを日々の生活から感じ取っていたのでしょう。
妊娠していなければ、もっと違った人生があったかもしれない。
一瞬、最低なことが頭をよぎりましたが、改めて考えれば考えるほど、彼女と結婚できて良かった。
カッコつける訳でもなく、自然とその答えに辿り着きました。
「妊娠しなかったとしても、結婚するなら彼女とだった気がします。今さら何を言っても結果論ですが(笑)」
普段なら茶化す職場メンバーも、僕の本気度を感じたのか、この時ばかりは、どこか腑に落ちた様子でした。
こう答えるのは、僕自身、非常に照れくさかったですが、彼女への愛情を再確認できました。
別居生活に関して悶々としていた不安も、もはや過去のことのように消え去りました。
そのきっかけを作ってくれたのは、他でもない、職場の仲間たち。
距離が近いからこその手荒い祝福のおかげでちゃんと前を向くことができたし、彼女を大事に思う自分にも気が付けました。
僕はまだ20代前半、将来どうなるかだってわからない。
自分の人生だけでも考えるのがやっと。
そんな僕が彼女を妊娠させてしまった。
誰にも言わない、いや言えないけど、逃げ出したくなる気持ちはもちろんあります。
恥ずかしい話、父親になる覚悟が弱いから、これからも何度も思い悩むと思います。
仲間にも、たくさん迷惑をかけると思います。
でも、
「こんなに素敵な仲間が周りにいるんだから、どんな困難だっても乗り越えていける。きっと、別居生活だって大丈夫だ。」
さすがに恥ずかしくて、そこまでは口にしませんでしたが、心はそう叫んでいました。
ここまで腹を割って話せて、僕のことを親身に考えていてくれる。
そんな仲間がいるから、僕は父親になれるし、人生を必死に進んでいけるんだ。
仲間の存在を嬉しく、そして誇りに感じました。
辛い時こそ、人の優しさが身に染みる。
みんなの支えを全面に感じた僕は、
「これからの日々を、より楽しく前向きに歩んでいこう。」
みんなと飲みながら、そう心に誓ったのでした。
<続く>
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