「彼女の下した決断。訪れる別居生活」僕は彼女に妊娠を告げられた|第11話
父への妊娠報告を無事に済ませて、安堵していた妊娠10週目。
事態は思わぬ方向に動きました。
その日もいつものように仕事を終え、駅に向かう直前にふとスマホを開いてみると、先に仕事を終えていた彼女から一通のLINEが届いていました。
「お疲れ!帰りにちょっと話したいことある。」
どこか改まった文面に、少し戸惑いつつ、怯えつつ、
「今終わった!どこいる?」
と返信すると、職場の最寄り駅にいるとのこと。
僕は急いで駅に向かうことになりました。
「ごめんごめん!待った?」
改札前で待っていた彼女のところへ駆け寄ると、
「そんなかな?全然平気やで!」
ちょうど彼女は近くで買い物をしていたので、あまり待たせることなく合流できました。
「とりあえず、なにか食べて帰る?」
お腹も空いていたし、なにより話の内容が気になっていたので、食事を済ませてから帰ることを提案してみました。
彼女も快諾してくれたので、ゆっくり話せそうな近くのレストランへ。
席につき、オーダーを済ませると、彼女はおもむろに口を開きました。
「実は今日な、職場に辞めるって言ってきた」
以前から、結婚や出産に対する理解が厳しい職場だと耳にしていたので、周囲の反応を心配すると、
「妊娠とは言わず、持病が再発しそうなんで、大阪帰って治療することにしましたって言った。そしたらどうにかOKもらえたわ」
やはり職場には妊娠を告げなかったらしく、今提出しているシフト分と、月末セールは働くという条件のもと、なんとか退職を認めてもらえたそうです。
改めて女性社会の厳しい現実を目の当たりにした気がしました。
「なんだ!それならよかったわ。話があるって言ってたからずっとヒヤヒヤしてたんだよね(笑)」
頃合いをみて退職を申し出るとは前々から聞いていたので、驚きはそこまでありませんでした。
彼女の話の内容を聞いて、すっかり安堵していると、
「実は話ってそれだけじゃないんよ」
他に全く思い当たる節はなく、恐る恐るその内容を尋ねてみると、
「月末で退職したら、出産まで半年以上あるやんか?それでこっちにいてもお金かかるだけやし、余計な心配もかけるやろうから・・・。せやから、安定期入ったら大阪に帰ろう思ってる」
「えっ!?どういうこと!?」
急な話の展開が理解できずに驚いていると、
「ずっと言えてなくてごめんな。実は、里帰り出産しようかな思って。その方が体調的にも、お金的にも良いやろうし。」
彼女は続けます。
里帰り出産については少しだけ話題に上ったことがありましたが、ほんの一瞬だったこともあり、全くのノーマークでした。
「大阪で産むってこと?えっ、帰るとしたらいつ!?」
状況が飲み込めず、僕は次々と彼女に質問してしまいました。
「うん・・・。やっぱ初産って不安やし、母親が傍に居たほうが安心かな思って。帰るとしたら、体調にもよるけど、安定期やから、妊娠5ヶ月から7ヶ月の間とかかな」
「5ヶ月だとしたら、もうすぐじゃん!」
彼女の里帰り出産まで残りたった2ヶ月ほど。
思ったよりも時間がないことに僕は愕然としてしまいました。
とはいえ、彼女の体調が最優先です。
正直な話、引き止めたい気持ちは山々でしたが、
「実家の方が快適に過ごせるなら、そうすればいいんじゃない?」
ここは無理にでも冷静さを取り戻して、彼女の里帰り出産を後押ししました。
彼女は申し訳なさそうに頷きながら、「具体的な日程は、これからお医者さんと決めていくね」と言いました。
職場や父への報告も難なく済ませて、彼女の退職日も決定し、心の余裕が少しずつ芽生えてきたのも束の間、彼女と一緒にいられるまでのタイムリミットが急遽決まることに。
残り数週間で彼女になにをしてあげられるだろうか。
里帰り中、彼女は大丈夫だろうか。
生まれるまで別居状態になっても、ちゃんと家族を維持できるのか。
もちろん表には出さないし、誰にも言えないけれど、ぶっちゃけ男として恥ずかしいほどに心配事が尽きません。
次から次へと浮かぶ不安や疑問が、父親になるであろう僕の脳内を支配していくのを感じました。
<続く>
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