「デキ婚で大切なのは、プロポーズじゃない。」僕は彼女に妊娠を告げられた|第15話
彼女の退職を3日後に控えた、妊娠13週目の帰り道。
僕たちは、見落としていた重大な事実に気が付きました。
いつも通り、駅で合流して、一緒に電車へ乗り込む僕たち。
帰宅ラッシュの電車は妊婦には負担が大きいため、彼女は優先席に座ります。
暫く電車に揺られて、最寄り駅に到着し、家まで歩きはじめると、彼女がおもむろに口を開きました。
「なあなあ、明々後日行ったら、仕事終わりやん?けど、有給消化してくれるみたいで、半月分くらいは給料出してくれるんやってさ!」
3日後に退職自体はするものの、残っていた有給分はきちんと対応してくれるとのこと。
「おぉー!よかったじゃん!」
今の僕らにとって、わずかでも経済的に潤うのは願ってもないことでした。
それなのに、彼女の表情はどこか浮かない様子。
「どうした?やっぱり、まだ仕事辞めたくなかった?」
心配になった僕が、彼女のことを気遣うと、
「ううん、そうじゃなくて。会社をやめるってことは、保険証返さなきゃやん?せやから、半月後には保険証返さなあかん。そしたら、診察代とか実費になるな思って。」
言われてみれば至極当然のことですが、その事実を今まで失念していました。
「たしかに!診察代実費はさすがにちょっと・・・。」
現在2週に一回のペースで通院している彼女にとって、保険証は必需品。
従って、それを失うとなると、経済的にかなり厳しい状況に追い込まれるのは、容易に想像がつきました。
「今から国保払うのも何やし、籍入れて扶養に入る方がええ気するんよな」
保険の関係上、なるべく早めに籍を入れようと提案する彼女。
「でも、籍を入れるなら、会社を辞めてから次の診察までの間がいいと思うんよな」
今すぐ入籍してしまうと退職する会社にもわざわざ申請しなければいけないため、あくまでも退職後に籍を入れるのが理想とのことでした。
「次の診察っていつなの?」
「来週も診察あるけど、まだそん時は今の会社の保険証があるから行ける!せやけどその次の検診がそこから2週間後で、その日は保険証がないから、新しい保険証が必要になるのは約3週間後くらいかな」
改めてカレンダーを確認すると、保険証の返還予定日から新しい保険証が必要になる3週間後の診察まで、猶予はたった6日ほどでした。
「消去法でこの6日しかないじゃん(笑)明日にでも入籍とか扶養のことを、職場の上司に掛け合ってみるね」
「ありがとう!私もお母さんや病院に連絡してみる!いけそうなら、その6日間のどれかに籍入れよ!」
お互い周囲に確認をとる形で、話は一段落しました。
「プロポーズとかないままサラッと決まったけど(笑)それは今度場を設けて、きちんとするよ」
「たしかに(笑)けど、今はうちらの結婚記念日より、この子の無事が優先やから仕方ないって。」
元々は、約3ヶ月後の僕の誕生日に正式に入籍する予定でしたが、今はそんな悠長なことは言ってられません。
ましてや、きっと僕より彼女の方が、ロマンチックなプロポーズに憧れていたはず。
その彼女は、今はプロポーズよりも出産に専念したい様子です。
すっかり母親になった彼女のたくましさや、自分を後回しにする優しさを、目の当たりにした僕は、
「子供が生まれて落ち着いたら、きちんとプロポーズしよう。」
と、
「母親としてだけではなく、“一人の女性”としても、彼女を幸せにしよう。」
と、
強く心に誓うのでした。
<続く>
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