「頼むから無事に妊娠していてくれ」僕は彼女に妊娠を告げられた|第3話
いよいよ運命の診察日。
「エコー写真に胎嚢が写らないのは、妊娠周期のカウントを間違えたからに違いない。きっと大丈夫。」
自分と彼女に言い聞かせながらも、流産や子宮外妊娠の可能性に怯え、気が気じゃない毎日を過ごした一週間。まさに、人生で一番長く感じた一週間でした。
この頃の僕は、日中は少しでも嫌なことを考えないように、とにかく仕事に打ち込んでいました。職場での口数もやはり減っていたように思います。
「ねえ、大丈夫かな?」
診察を控え、今にも不安と緊張に押しつぶされそうな彼女。
「きっと大丈夫、妊娠してるよ。」
一見軽はずみに聞こえるこのセリフでさえ、今は僕たちの希望でした。
つい数週間前まで「えっ、妊娠!?何かの間違いでは・・」と願っていた僕が、いつの間にか「頼むから無事に妊娠していてくれ」と心から願っている。そんな心境の変化に自分自身が驚きながら、彼女を病院まで送り届けました。
余談ですが、ほとんどの女性が婦人科には一人で行くそうです。理由は、女性ばかりの環境で男性に同行してもらうと、変に周りの目が気になってしまうから。
この日も彼女を送り届けて、僕は駅の本屋で待機。
本屋にいたのは、きっと小一時間くらいだけでした。しかし、この小一時間は今思い返してもとてつもなく長かったなと感じます。
彼女を待つ間、まず僕を襲ったのは
「もし流産したら、どうしよう」
という不安。
そして、正直な話
「もし子どもができてなかったら、結婚しなくていいかもしれない。いや、この期に及んで俺は何を思ってるんだ。」
という葛藤でした。
「最低な男だな」と思われると思いますが、これがありのまま、リアルな僕の心理でした。自分でも「お前、最低だな」と自己嫌悪したものです。
子どもの無事を祈り、必死に立ち向かう彼女に比べて、この期に及んで自分のことばかり考えている自分に、ほとほと嫌気がさしました。
ですが、不安や葛藤という感情に揺れ続けた後、最後に生まれたのは覚悟でした。
「どんな結果になろうと、彼女との未来を頑張ろう」
そう、思えたんです。
もちろん無事に産まれてくることを祈っていたので、正しい言い方をするなら
「彼女と子どもとの未来を頑張ろう」
かもしれません。
最終的には、父親になる覚悟を決めていました。
彼女と子どもの将来を背負う覚悟を。
小一時間とは思えない長い長い時間を本屋で過ごし、彼女を病院に迎えに行きました。
診察を終えた彼女は、
笑っていました。
安堵した顔ににじみ出る、ほっとした笑顔だったことを、今でも鮮明に覚えています。
診断結果は正常妊娠で、妊娠5週目。妊娠の周期を一週間早く数えてしまっていただけでした。
彼女の笑顔、そして受け取った胎嚢の写るエコー写真を眺めながら、徐々に強くなっていく父親になる実感。
不安と葛藤に揉まれて決めた覚悟、そしてのその先に一筋の光を見出して、彼女との本格的な妊娠生活が幕を開けました。
<続く>
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