「避けては通れない、宿敵との対面」僕は彼女に妊娠を告げられた|第9話
妊娠9週目。
いよいよ、父親に報告する日が近付いてきました。
「マジで親父に報告するのか。なんか嫌だな〜、やっぱりやめとかない?」
父親との関係がまあり良くない僕が嘆いていると、
「大丈夫やって!なんだかんだであのお父さんなら喜んでくれると思うで!」
と優しく声をかけてくれます。
彼女は何度か僕の両親に会っているため、父の性格をなんとなくは理解してくれていました。
僕は三兄弟の末っ子生まれ。
末っ子と言えば、可愛がられる印象があるかもしれませんが、僕は兄たちとは10以上の歳の差があり、いわゆる過失で産まれてしまった子でした。
毎日のように怒られ続けて育ち、純粋に父親に対していい印象は抱いていませんでした。
僕だけが甘やかされて育つのを毛嫌いしていた節もあったと思います。
何か頼み事をしても、
「お兄ちゃん達は我慢してたんだから。お前ばかり甘えるんじゃない!」
そう怒られるのが恒例で、幼少期から父は僕の宿敵でした。
二人の兄が家を出てからは、より一層僕に対する風当たりは強くなり、
なにかと理由をつけては、毎日のように厳しく叱られる学生時代を過ごすハメに。
「早くこの家を出ていきたい」
物心ついたときには漠然と家出を考えるようになり、高校に進学してからは、間隙を縫ってはバイトに明け暮れる毎日を過ごしました。
高校時代の三年間、まともに父親と会話した記憶はありません。
何かと言われたときも
「卒業までの辛抱だ。」
そう自分に言い聞かせて、聞き流していました。
高校を卒業してからは、一人暮らしをはじめ、それからは年に数回顔を合わせるか合わせないかくらいの疎遠な仲に。
だいぶ距離が離れたことで、昔よりも関係性は改善しましたが、とはいえ厳格な父です。
急な結婚報告と妊娠報告、怒鳴りつけられるのは目に見えていました。
「本当に何を言われるかわかんないよ?殴られるかもよ?大丈夫?」
父のリアクションを僕が危惧していると、
「大丈夫!怒られたら私も一緒に謝ってあげるから。」
彼女の強い説得にも勇気づけられて、僕たちは実家に向かうことを決めました。
結婚や妊娠など人生のステージが変わる瞬間、どんなに目の敵にしている親が相手でも、その報告を避けては通れない。そう痛感した、妊娠9週目でした。
<続く>
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